Kuṭṭanīmata — 遣手婆の教え

Dāmodaragupta 作 ・ 全1059詩節 ・ 目次と内容梗概

作品の概要

『クッターニーマタ』(Kuṭṭanīmata=遣手婆の教え)は、8世紀カシュミールの宮廷詩人ダーモーダラグプタによるアーリヤー韻律の教訓詩である。舞台はヴァーラーナシー(ベナレス)。若き遊女マーラティーが老練な遣手婆ヴィカラーラーのもとを訪れ、客から財を巻き上げる遊女の術を伝授される――という枠物語の中に、恋愛術・処世術・挿話が織り込まれる。

登場人物

物語の構造

枠物語と入れ子構造

外枠:詩人の語り
ダーモーダラグプタがヴァーラーナシーの都と登場人物を紹介する(v1–31, v1058–1059)
▼
中枠:ヴィカラーラーの教え
遣手婆が遊女マーラティーに恋愛術・処世術を体系的に伝授する(v32–175, v498–1057)
▼
内枠:ハーララター物語
教訓を例証する長大な挿話。遊女ハーララターと王子スンダラセーナの恋物語(v176–497)

各章の詩節数

章段詩節数
帰敬偈1
詩人の序辞1
都の描写15
マーラティー紹介4
訪問5
ヴィカラーラーの容姿5
嘆願12
マーラティー称賛14
客を惹きつける法30
女使いの派遣19
美質の描写31
恋人への接待38
ハーララター物語322
教え(続)85
恋する女の特徴112
遊女の法74
色男の物語90
結び201

目次・内容梗概

詩節章題内容梗概
1 Maṅgala-padyam帰敬偈 カーマ神(愛の神)への帰敬。ラティの顔という蓮華に口づけする蜜蜂のごとき神を讃える。
2 Kavi-vacana詩人の序辞 作者ダーモーダラグプタが読者に呼びかけ、欠点には目をつぶり美点に注目して聴くよう求める。
3–17 Vārāṇasī-varṇanamヴァーラーナシーの描写 描写舞台となる聖都ヴァーラーナシーの壮麗な情景。シヴァ信仰の聖地でありながら、遊女たちが闊歩する歓楽の都でもある。掛詞(śleṣa)を駆使し、聖と俗の二重性を描く。
18–21 Mālatī-varṇanamマーラティーの紹介 描写若き遊女マーラティーの容姿と魅力。ガルダのごとく富める者の心を奪い、パールヴァティーのごとくシヴァの心を射止めた女。
22–26 Vikarālā-abhigamanamヴィカラーラーを訪ねる 物語マーラティーが屋上でアーリヤー韻律の歌を耳にし、老遣手婆ヴィカラーラーの存在を知る。侍女たちを従え、急いで彼女の屋敷を訪ねる。
27–31 Vikarālā-varṇanamヴィカラーラーの容姿 描写老いさらばえた遣手婆の容姿をグロテスクに描く。歯はまばら、鼻は潰れ、皮膚は弛んでいるが、護符や薬草の首飾りで身を飾っている。
32–43 Mālatī-nivedanamマーラティーの嘆願 対話マーラティーがヴィカラーラーの前にひざまずき、客から利益を得る方法を教えてほしいと懇願する。自分の美貌がハリ神からカウストゥバ宝珠を奪い、太陽から輝きを奪うほどだと訴える。
44–57 Vikarālā-vacana: Mālatī-praśaṃsāマーラティー称賛 教えヴィカラーラーがマーラティーの身体の各部位を順に褒め称える。髪、眉、歯並び、唇、乳房、腰、腿、歩み――それぞれが男を虜にする武器であると説く。
58–87 Vikarālā-upadeśa客を惹きつける方法 教えヴィカラーラーの教えが本格的に始まる。理想の客(nāyaka)の類型、男を惹きつけるための装い・振る舞い・歌舞音曲の心得。六十四の技芸を身につけるべきことを説く。
88–106 Dūtī-prayoga女使いの派遣 教え仲介役の女(dūtī)を使って客を誘引する方法。甘言の運び方、愛慕・怒り・嘆きの演じ分け、女優のごとき演技力の重要性。
107–137 Mālatī-guṇa-varṇanamマーラティーの美質の描写 教え掛詞マーラティーの美質をさらに詳しく描写。恋の病に苦しむ男たちの症状(樟脳を嫌い、蓮糸を厭う等)。掛詞によって恋情と自然現象を重ね合わせる。
138–175 Nāyaka-upacāra恋人への接待の仕方 教え客を迎えてからの接待術。情事の作法、事後の振る舞い、客の妻への対処法、客の心を繋ぎ止める心理術。嫉妬を利用して客の関心を高める方法。
176–497 Hāralatā-Sundarasena-kathāハーララター=スンダラセーナ物語 挿話作品の中核をなす長大な物語。パータリプトラの遊女ハーララターと王子スンダラセーナの恋を軸に、出会い、逢瀬、嫉妬、別離、再会、策略が展開される。ヴィカラーラーの教えを実例として示す役割を果たす。宮廷劇の上演場面や、サーリカー鳥の物語など、さらなる入れ子構造を含む。
498–582 Vikarālā-upadeśaヴィカラーラーの教え(続) 教え挿話を終え、ヴィカラーラーの教えが再開。客の類型に応じた対処法、財産を巻き上げる具体的手段、客を切り捨てるタイミングの見極め。
583–694 Kāminī-lakṣaṇa恋する女の特徴 教え恋に落ちた女の徴候を詳述。視線、仕草、言動から相手の真意を読み取る方法。真の恋情と演技の見分け方。
695–768 Veśyā-dharma遊女の法 教え遊女が守るべき掟と職業倫理。金銭と愛情の関係、客との距離の取り方、遊女の家系における母から娘への伝承。
769–858 Viṭa-kathā色男の物語 物語教え色男(viṭa)たちの逸話。遊女に翻弄される男たちの滑稽な姿を通じて、客を操る術の実例を示す。田舎者と都会人の対比、舞踊・演劇論も含む。
859–1059 Samāpana結び 物語教えヴィカラーラーの教えの総括。遊女の使者(dūtī)が客に送る恋文の技法、恋煩いの描写、最終的な教訓。マーラティーは教えに満足し、ヴィカラーラーの足に礼拝して帰宅する。末尾の詩節(v1059)で、この詩を正しく聞く者は遊女・色男・遣手婆に欺かれないと結ぶ。

※ v1056–1059は二つのネパール写本と二つの校訂版にのみ見られる。